1.現代的動物虐待
(1)実験動物
- 外科手術の習熟
- 病気治療の研究
- ワクチンや抗体の製造
- 高等学校、大学における生物学教育
- 製品の安全検査、有害物質の有害範囲の決定
- 新薬の効果や副作用の検証
- 生物についての知識を獲得するための基礎研究
など、多岐にわたって利用されている。
動物実験の基本理念~3Rの原則~
- Replacement: 代替法の活用(動物を利用しないですむ実験方法に置き換える)
- Reduction: 使用動物数の削減(研究に供する動物数を減らす)
- Refinement: 苦痛の軽減(実験手技を洗練して動物が被る苦痛を減らす)
最近では、Responsibility(責任)を追加し「4R」とする考え方もある。
事例)ウサギのドレイズ・テスト
ウサギの眼を使い、日常生活の中で人の眼に入る可能性がある製品(化粧品)などが
どの程度有害であるかを調べること。
→1980年 ヘンリー・スピラ(アメリカの動物権運動の活動家)が、ドレイズテストを行っている
ニューヨークの化粧品会社前で抗議デモを実施。
→代替法の研究が進み、動物実験の数がかなり減少。
化粧品などに「クルエルティ・フリー(Cruelty-free:”化粧品、薬品などが開発段階で
動物実験抜き”)」の文字が印刷されるようになる。
(2)食用動物
科学技術を応用した近代の集約畜産が動物に苦痛を与えていることが指摘されている。
事例)バタリー・ケージ(超過密飼育)養鶏
お互いの体に傷をつけあわないように、また飼料のはねこぼしをなくす目的で、下側の
嘴(くちばし)よりやや短めに上側の嘴を専用の用具を用いて切る。
→近年、苦痛を緩和する方向で改善が図られている。
また、EUでは段階的に廃止する方針が出されている。
2.アニマル・ライツ(動物の権利)
ヘンリー・ソルト
1892年 『アニマル・ライツ(動物の権利)』を出版。
→”制限された自由“を主張。
「もし人間が権利を持っていれば動物も権利を持っている」
ルール・ハリソン
1964年 『アニマル・マシーン』を出版。
→イギリス政府が、工場畜産の下にある家畜の福祉の増進を目的とする実態調査を行う
ブランベル委員会を設置する契機となる。
「どんな条件の下であろうと、家畜には少なくとも動作における5つの自由(※)が保障されるべきである」
※5つの自由とは?
- 楽に向きを変えることできる
- 自分で毛並みを揃えることができる
- 起き上がることができる
- 横たわることができる
- 四肢を伸ばすことができる
なお、現在では新しい5つの自由として
- 飢え、渇きからの自由
- 不快からの自由
- 苦痛からの自由
- 恐怖・抑圧からの自由
- 自由な行動をとる自由
が、唱えられている。
ピーター・シンガー(モナッシュ大学哲学科教授)
1975年 『動物の解放』
動物権運動を公民権運動(人種差別撤廃の運動)、女性解放運動につづく解放運動の流れの中に位置づける。
→動物権運動のバイブルとなる。
ベンサムの功利主義思想に基づく思想。
トム・レーガン(ノースキャロライナ州立大学哲学科教授)
アメリカにおける現代動物権運動の理論的指導者。
1983年 『動物の権利の根拠』
動物を、人間が利用するために存在する資源とみなすようなシステム全体に反対。
→商業的畜産、科学における動物利用、スポーツ・娯楽のために動物を利用することに
全面的に反対。
「動物は生まれながらにして固有の価値を持っており、生きる権利を持っているので
われわれはたとえ痛みや苦しみを与えなくても動物を殺すことはできない」と主張。
3.共生という考え方
今日、自然環境の破壊が問題となっており、人類の生存に影響を与える段階まできている
→人間も自然や動物と共生していかねばならない。
ハーバード・スペンサー(イギリス哲学者)
「制限された自由」=権利
(ヘンリー・ソルトも同様の主張)
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動物に道徳的に配慮して必要最小限に利用させてもらうという意識を持ち、努力することは大変重要である。
動物の立場に立ってみて、このような行為をしたら動物はどんな気持ちがするだろうか、と
感情移入することが、動物に道徳的配慮をするために必要なことと考える。
強い立場にあるものが弱い立場の側に立って、相手を理解し、思いやることが、この世界ですべての動物が
共生していくための必須の条件である。
以上
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